自己中心的な行動のメカニズムを紐解く上で、19世紀の自然淘汰説まで遡る必要があるのは言うまでもない。チャールズ・ダーウィンが提示した「適者生存」の理論は、生命が環境に適応し自己の生存を最優先するプロセスを解き明かした。しかし、個体レベルの生存競争だけでは説明がつかない複雑な社会性行動の謎は、20世紀後半まで残されたままだった。
その静寂を破ったのが、オックスフォード大学の名誉教授であるリチャード・ドーキンスだ。彼が1976年に発表した著書『利己的な遺伝子』は、生命の主体を「個体」から「遺伝子」へとシフトさせ、科学界のみならず全世界に強烈なパラダイムシフトをもたらした。個体は遺伝子が自らを複製し後世に残すための「乗り物(ビークル)」に過ぎないという視点は、進化生物学界における議論のあり方を根本から塗り替えたのである。