日本美術の歴史において、2000年代以降の「伊藤若冲ブーム」はまさに空前絶後の社会現象でした。その中心で熱狂の起爆剤となったのが美術史家の山下裕二氏です。江戸中期の奇想の絵師たちが持っていた圧倒的な超絶技巧と奔放なイマジネーションを、誰もが直感的に楽しめる言葉で提示し、美術館に長蛇の列を作り出しました。
辻惟雄氏の著書『奇想の系譜』に強い衝撃を受けた山下氏は、若冲のみならず曾我蕭白や長沢芦雪といった個性派絵師たちの再評価を強力に牽引。難解な専門用語で敷居を高くするのではなく、「超絶技巧の凄み」「絵師の狂気とユーモア」を生き生きと解説するスタイルを確立しました。このアプローチが、従来の美術愛好家層だけでなく若い世代やアート初心者の知的好奇心を一気に覚醒させる契機となりました。