徳川慶喜の生涯を語る上で特筆すべきは、歴代徳川将軍15人の中で圧倒的な最長寿記録を誇る点です。江戸時代の歴代将軍の平均寿命は約50歳前後であり、初代・徳川家康の73歳、第8代・徳川吉宗の67歳などが長寿として知られていましたが、慶喜の満76歳という記録は群を抜いています。
慶喜は天保8年(1837年)に水戸藩主・徳川斉昭の七男として生まれ、明治維新を経て、大正2年(1913年)まで生き抜きました。これは、幕末に熾烈な権力闘争を繰り広げた坂本龍馬、西郷隆盛、木戸孝允、大久保利通ら明治維新の立役者たちが次々と志半ばや若くして世を去ったのに対し、慶喜は彼ら全員の死を見届けたことになります。
明治という激動の1つの時代(45年間)が丸ごと過ぎ去り、大正デモクラシーの胎動が始まった時代まで元将軍が生存していたという事実は、当時の近代日本の市民にとってもまさに「生ける歴史の証人」として受け止められていました。