日本の温浴施設に慣れた人がドイツのサウナ施設を訪れると、入口で「Textilfrei(衣服禁止=水着不可)」と明記された標識を目にして立ち尽くすケースが珍しくありません。この徹底したドイツサウナ水着禁止の規則は、一見すると極端に見えますが、ドイツサウナ協会(Deutscher Sauna-Bund)が定める厳格な公衆衛生ガイドラインに直結しています。
最大の理由は、高温多湿の空間における雑菌の繁殖防止と化学物質の吸入リスク回避です。化学繊維で作られた水着を高温のサウナ室内に持ち込むと、繊維に染み込んだプールの残留塩素や老廃物が熱によって揮発し、密閉されたサウナ室内の空気を汚染します。さらに、水着と皮膚の間に汗が溜まることで皮膚トラブルを引き起こすリスクが高まるため、現地では「水着を着てサウナに入る行為こそが不衛生でマナー違反」と認識されています。
また、ドイツサウナ混浴の理由を探る上で欠かせないのが、19世紀末から20世紀初頭にかけてドイツ全土に広まったFKK文化(Freikörperkultur:自由身体文化・ナチュリズム)の思想です。産業革命に伴う急激な都市化や大気汚染に対抗し、自然回帰によって心身の健康を取り戻そうとしたこの運動は、人間の身体を衣服や社会的地位から解放し、ありのままの自然物として肯定する価値観を育みました。ドイツ人にとって、サウナ室で衣服を脱ぐことは性を誇示することではなく、社会的な装飾を捨てて健康と向き合う平等の儀礼なのです。