日本漫画史における最大の勘違い劇とも呼べるのが、「ラーメン大好き小池さん 本名」にまつわるエピソードです。結論から述べると、作中に登場するあのキャラクターは実は鈴木さんであり、姓は「小池」ではありません。
この奇妙なねじれの引き金となったのは、昭和30年代の東京・阿佐ヶ谷での下宿生活でした。トキワ荘の住人であり、藤子不二雄の両氏(藤子・F・不二雄氏、藤子不二雄Ⓐ氏)と親交が深かったアニメーション作家の鈴木伸一氏が、当時「小池さん」という一般家庭の2階に部屋を借りて下宿していたことが発端です。
藤子両氏が鈴木氏の部屋へ原稿の応援や打ち合わせで遊びに行く際、玄関には当然ながら家主である「小池」の表札が掲げられていました。やがて1964年に『週刊少年サンデー』で連載が始まった『オバケのQ太郎』に、鈴木氏をモデルにした風貌のキャラクターを登場させるにあたり、藤子両氏は「小池さんの家に下宿している鈴木さん」をそのまま描写したのです。
ところが、作中で近所の子どもたちや読者は、家の表札に書かれた「小池」の文字を見て「あそこに住んでいるのは小池さんだ」と認識してしまいます。作者側もあえて訂正することなく、周囲の呼び名に合わせて「小池さん」として定着させました。後に発表された公式スピンオフ作品や設定資料集、自伝的エッセイでも「本名は鈴木伸一、小池家に寄宿」と明記されており、読者の素朴な思い込みがキャラクターの呼称を上書きした珍しい事例として知られています。