一般的に、サッカーや陸上長距離のような有酸素運動を極限まで続ける競技では、肺機能の低下に直結する喫煙は致命的とみなされます。しかし、野球界においてプロ野球選手の喫煙率の現在はおよそ30〜40%程度と推計されており、厚生労働省が発表する成人男性の平均喫煙率(約25%前後)と比較しても依然として高い水準を維持しています。これほどまでにプロ野球選手に喫煙者が多い理由には、競技特有の身体的・精神的メカニズムが存在します。
第1の要因は、野球というスポーツの「エネルギー供給系」にあります。サッカー選手が1試合で10km以上を走り続けるのに対し、野球は打席での一瞬のスイングや塁間のダッシュ、投球動作といった数秒間の爆発的な出力を繰り返す「無酸素運動」が中心です。最大酸素摂取量(VO2max)の絶対値がパフォーマンスの決定打になりにくいため、喫煙による心肺機能への影響を選手自身が体感しにくい構造があります。
第2の要因は、試合時間の長さと「極度の緊張と弛緩の繰り返し」です。3時間を超える試合の中で、選手がフルパワーを出す瞬間はごくわずかであり、大半はベンチや守備位置での待機時間です。この待機中に高まったアドレナリンを鎮め、自律神経を意図的にリセットするための手段として、ニコチンによる鎮静作用に依存してしまう側面があります。
第3に、1年の半分近くをホテルや遠征先で過ごし、毎日の結果で評価される過酷なプレッシャー環境が挙げられます。自著や引退後の手記で多くのOBが語るように、凡打や失点のストレスを宿舎や移動中に引きずらないための「精神的スイッチの切り替え装置」としてタバコが機能してきた歴史があります。
第4の要因として見逃せないのが、伝統的な球界の縦社会コミュニケーションです。かつてはロッカールームや喫煙所が、先輩から後輩へ技術論や配球論を伝授する「情報交換の社交場」として機能していました。首脳陣や主力選手が集う場所へ顔を出すことがチームへの適応を意味していた昭和・平成初期の名残が、文化として継承されてきた側面は否定できません。