インターネット上の言説やSNSの議論において、緊急逮捕に関する最大の誤解は「警察が逮捕した以上、捜査機関の思惑通りに手続きが進む」という思い込みです。しかし実務上、司法によるブレーキ機能は厳密に作動しています。
刑事訴訟法第210条第1項の但書には、「逮捕状が発付されないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない」と明確に規定されています。現場の捜査員が急速性を理由に身柄を拘束したとしても、事後に書類を受け取った裁判官が「緊急の必要性が認められない」「証拠から見て嫌疑が不十分である」と判断して令状請求を却下した場合、警察はいかなる理由があろうとも被疑者を即時釈放する法的な義務を負います。
最高裁判所事務総局の司法統計データを参照すると、年間の逮捕状請求に対する却下率は全体として0.1〜0.2%程度と極めて低水準にとどまっています。この数値を「裁判所が警察の請求を追認しているだけ」と捉えるのは早計です。捜査現場では、万が一にも令状が却下され違法逮捕と糾弾される事態を極度に恐れるため、現場指揮官や検察官との事前協議を通じて「確実に令状が発付される客観的証拠」が揃わない限り、緊急逮捕のカードを切らないという強い自制が働いているのが実態です。