以蔵の生涯における最大の転換点は、開明派の巨頭・勝海舟との出会いだろう。坂本龍馬の仲介によって以蔵は勝の護衛を務めることになり、京都の路上で実際に刺客を一刀両断して勝の命を救っている。
勝はこのとき「人を殺すのはよろしくない」と諭したのに対し、以蔵は「私の剣がなければ、先生の首は今頃飛んでいました」と切り返したという。この痛烈なやり取りは、以蔵が決して盲目的な狂人ではなく、自らの暴力の現実を冷徹に見つめる鋭い感性を持っていたことを物語る。勝のもとで新たな生き方を模索する道は確かに存在していた。だが、土佐の血脈と因縁の鎖が、彼を再び逃れられない破滅の渦へと引き戻していく。