赤富士とは、山肌に雪がない晩夏から初秋(概ね7月下旬〜10月上旬)の早朝、富士山が朝日に照らされて鮮烈な赤銅色や深紅に染まる自然現象を指します。冠雪のない露出した溶岩や火山礫(スコリア)の赤褐色が、朝焼け特有の波長の長い赤色光と重なり合うことで、燃え上がるような特異な景観を生み出します。
この現象が発生するためには、以下の物理的・気象的要素が分単位で完全に一致しなければなりません。
- 空気中の水蒸気量と雲の配置:東の空(太陽が昇る方向)に雲がなく、直射日光が遮られないクリアな状態であること。
- 山体付近の薄い霞や湿度:太陽光の青色光が散乱し、波長の長い赤色光だけが山体に到達する光学的散乱条件が整っていること。
- 太陽高度と射光角度:日の出直後、地平線すれすれの低い角度から強烈な朝光が富士山の斜面に直撃するわずか数分間であること。
山肌が赤く輝くピークは日の出直後のわずか3分から10分程度に過ぎず、太陽が昇るにつれて通常の青灰色や茶褐色へと急速に変化します。気象観測の現場では「一瞬の光のドラマ」と呼ばれており、少しでも雲がかかれば成立しない極めて繊細な現象です。