『遠き山に日は落ちて』の原曲は、ボヘミア(現在のチェコ)を代表する作曲家アントニン・ドヴォルザーク(Antonín Dvořák)が1893年に作曲した『交響曲第9番 ホ短調 作品95《新世界より》(From the New World)』の第2楽章(ラルゴ)です。ニューヨークのナショナル音楽院院長として招かれていたドヴォルザークが、新大陸アメリカの活気、黒人霊歌(スピリチュアル)や先住民族の音楽に触れ、深い感銘を受けて書き上げました。
第2楽章の冒頭、静謐な和音に続いて現れる有名な哀愁のメロディは、オーケストラの中でイングリッシュホルン(コーラングレ)という木管楽器によって独奏されます。ドヴォルザーク自身の手記や当時の関係者証言によると、彼はアメリカの広大な大地に圧倒されつつも、大西洋の彼方にある故郷ボヘミアへの激しい望郷の念を募らせており、その郷愁がこの切なくも美しい旋律へと昇華されました。
この第2楽章の主題が独立した歌曲として世界中に広まった契機は、ドヴォルザークの弟子であったアメリカ人音楽家ウィリアム・アームズ・フィッシャー(William Arms Fisher)の存在です。フィッシャーは師の許可を得て、1922年にこの旋律へ英語の歌詞を付け、合唱・独唱用の歌曲『Going Home(家路)』として発表しました。これが世界的な大ヒットを記録し、世界各国で独自の歌詞が付けられて歌い継がれる出発点となったのです。