アスベスト吸入による最大の恐怖は、ばく露から発症までに20年から50年という極めて長い潜伏期間が存在することだ。特に悪性中皮腫やアスベスト肺は、有効な根本治療法が乏しく、一度発症すれば死に至る確率が極めて高い。
厚生労働省が定める石綿障害予防規則および労働安全衛生法では、事業主に対して作業者のばく露防止措置や定期的な健康診断、作業履歴の50年間保存を厳格に義務付けている。しかし、今回のケースで問われているのは現場作業員への安全配慮義務にとどまらない。
不特定多数の市民が利用する公共交通機関において、労働安全の基準をそのまま一般客の安全基準に当てはめてよいのかという議論が熱を帯びている。微小な微粉塵をひとたび吸い込めば、数十年後に突如として深刻な病魔となって襲いかかる。この恐ろしさこそが、世間の不信感を増幅させる根本原因だ。