「紺屋の白袴」の正しい読み方は、伝統的には「こうやのしろばかま」と読みますが、現代の国語辞典では「こんやのしろばかま」も見出し語として広く認められています。歴史的仮名遣いや江戸の町人文化に根ざした文脈では「こうや」と発音されるケースが一般的です。
この慣用句が持つ中心的な意味は、「専門の技術や職業を持ちながら、他人の注文や依頼に忙殺されるあまり、自分自身のためにその技術を使う暇がないこと」を指します。決して「腕前が未熟だから自分の袴を染められない」という意味ではありません。
語源の舞台となったのは、江戸時代を中心に庶民の衣類を藍色などに染め上げていた「染物屋(紺屋)」の職人たちの過酷な日常です。当時の職人は、顧客から持ち込まれる大量の反物や着物を期日通りに美しく染め上げることに追われていました。自分自身が履く袴を藍に染める余裕など一切なく、無着色のままの「白袴」を履いて作業に従事していたリアルな情景から、この故事ことわざが誕生しました。
職人が自分の身なりに構っていられないほど仕事に打ち込んでいる姿は、ある種の「職人気質」や「仕事熱心さ」の象徴でもありましたが、同時に専門家の足元がおろそかになっている状態を揶揄するユーモアとしても定着していった歴史があります。