「もっと座席を詰め込めば、5万5000人どころか6万人入るのではないか」という疑問が生じるかもしれません。しかし、そこには日本の厳格な法令、とりわけ消防法と建築基準法に基づく厳密な動員数規制が立ちはだかります。
グラウンドという本来観客席ではないフラットな空間に1万人以上の観衆を収容するアリーナエリアには、消防庁の安全指導により極めて細かな基準が課されています。 具体的には以下の安全基準の遵守が義務付けられています。
- 客席ブロック間の縦横通路の幅(通常1.2m〜1.5m以上)の確保
- 火薬類を使用する特殊効果(キャノン砲や炎演出)の保安距離(可燃物や観客から数メートル以上のクリアランス)
- 外野フェンス際および非常口へ直通する緊急避難誘導動線の常時確保
これらの安全マージンを無視して椅子を増設することは法的に一切許されません。仮に無理な増席を行えば、緊急時の将棋倒しや群衆雪崩(クラウドラッシュ)といった大惨事を招く危険性があるためです。
歴史的な「東京ドーム 最大動員数記録」の正体
過去の報道を振り返ると、東京ドームで「6万7000人」「6万5000人動員」と記録されたイベントが存在します。代表的なものが、1990年代の新日本プロレス東京ドーム興行や、マイク・タイソンの世界ヘビー級タイトルマッチといった格闘技イベントです。
これらが驚異的な数字を叩き出せた理由は、グラウンドの中央にリングを配置する「センターステージ(360度開放)方式」を採用した点にあります。音楽ライブのように外野スタンドを封鎖する必要がなく、スタンド席を文字通り全方位フル解放し、さらにグラウンド全域にアリーナ席を配置できたため、物理的限界に近い6万人規模の動員が可能となりました。
近年でも、一部のスーパーグループが360度センターステージ方式を採用し、バックステージ席を解放することで公称約5万5000人のフルキャパシティを記録する事例は存在します。しかし、一般的なステージセット(北側・外野側を背にする配置)を採用する9割以上のコンサートにおいては、5万人の大台に乗せること自体が極限のレイアウト設計の賜物なのです。