イタリア半島の南端、地中海の十字路として多彩な文明が交差してきたシチリア島。その複雑で豊かな歴史は、独自のシチリア料理へと結実した。アラブ由来のスパイス使い、ノルマンの薫香、古代ギリシャの素朴さ。一般的なイタリア料理という枠組みでは到底語り尽くせない奔放なダイナミズムがそこにある。
店内を満たすのは、まさにパレルモやカターニアの市場さながらの熱気だ。カラフルなマヨリカ焼きのタイル、所狭しと並ぶワインボトル、そしてオープンキッチンから響くリズミカルな鍋の音。本物のトラットリアが持つべき猥雑さと温もりが、訪れる者の心を一瞬で解きほぐしていく。気取ったテーブルマナーは無用。肩肘を張らず、豪快に笑い、皿を囲むことこそが地中海食文化の真髄なのだと、空間全体が雄弁に物語っている。