韓国のビジネスシーンにおいて、代表取締役や社長を指す標準的な呼称が「サジャン(사장)」である。しかし、本人に直接呼びかける際や、外部の人に対して自社のトップを敬意をもって語る際には、敬称の接尾辞「〜ニン(님=様)」を付けた「サジャンニン(사장님)」を用いるのが鉄則だ。韓国語敬語表現の基本として、役職名+ニン(様)の組み合わせは、相手への敬意を示す最も自然で不可欠なマナーとされる。
注意すべきは、社内での対話と社外向けの説明での使い分けだ。自社内で上司や同僚と話す際、社長を指して「サジャンニンが指示された」と述べるのは自然だが、取引先などの社外の人に対して自社の社長について話す場合は、過剰な敬称を避ける場面も増えている。ただし、日本の謙譲語のように「弊社の社長の〇〇が…」と完全に呼び捨てにする文化とは異なり、相手との関係性や企業の社風によって柔軟に敬称が残されることも少なくない。この「敬意と実利の塩梅」こそが、現代韓国ビジネスのリアルな裏事情といえる。
さらに、飲食店やタクシーの運転手、小さな店舗の店主に対して親しみを込めて「サジャンニン!」と呼ぶ街角の文化も根強い。ビジネスの厳格な敬語でありながら、庶民的な親近感をも内包する多面性が、この言葉の最大の特長だ。