アイヌ語において「カンナ(kanna)」は「上の・天上の」、「カムイ(kamuy)」は「霊格・神」を意味し、直訳すれば「天の上に座す至高の神」を指します。アイヌ文化の神々(カムイ一覧)の中でも、カンナカムイは天空の世界(カンナモシリ)を司る最高峰の階位に位置づけられており、人間に恵みと試練の双方をもたらす絶対的な力を持つ存在として語り継がれてきました。
伝承におけるカンナカムイの正体は、単なる自然現象の雷撃にとどまりません。天界の城から地上(アイヌモシリ)を見下ろし、人間界に悪鬼や邪神がはびこった際には、天を切り裂く「雷鳴の矢(カンナカムイ・アイ)」を放って瞬時に粉砕する守護神としての役割を担っています。雷が落ちた樹木から立ち上る炎は、人間にとって不可欠な「火」の起源とも結びつけられ、火の神アペフチカムイと並ぶ重要な恩寵の源流ともみなされてきました。
アイヌの長老や口承記録を紐解くと、カンナカムイに対する人々の感情は単なる恐怖ではなく、「深い敬意を伴う畏怖(オプシケ)」であったことが分かります。もし人間が傲慢になり、自然への感謝を忘れて掟を破れば、容赦のない雷火によって集落ごと焼き払われると信じられていました。このように、カンナカムイは自然の猛威そのものであると同時に、人間社会の倫理を正す最高裁判官のような厳格さを併せ持っていたのです。