「ひこうき雲」は、松任谷由実がまだ高校生だった1970年代初頭、若くして病で世を去った小学校時代の同級生を悼んで書いた楽曲だ。死を美化するのではなく、空へ溶けていった命の不可逆な美しさを、冷徹なまでの透明感でスケッチしている。
この曲に隠された本質は、映画『風立ちぬ』が描いた二重構造と完璧に重なり合っている。堀越二郎が命を削って生み出した美しい翼は、青空を切り裂いて多くの若者を死へと運び、愛した菜穂子は風のように儚く逝ってしまう。「高いあの雲へ 登ってゆく」という詞は、飛行機への憧れであると同時に、戻らない命へのレクイエムそのものだった。
生きることの残酷さと、それでも生きねばならない人間の業。宮崎駿が作品に込めた重層的なメッセージを、当時10代だったユーミンの感性が数十年先回りして言語化していたという事実は、今なお聴く者の鳥肌を立たせる。