日本民藝館の真価は、陳列ケースのガラス越しに見る工芸品だけではありません。建物そのものが工芸品であり、最大の展示物として鑑賞者を包み込みます。1936年に竣工した日本民藝館本館の建築様式は、柳宗悦自らが設計指導を行い、大工棟梁たちと対話を重ねながら造り上げたもので、国の登録有形文化財に指定されています。
日本伝統の土蔵造りを基調としながら、洋風建築の手法を柔軟に取り入れた独自の意匠が特徴です。外壁には大谷石が積み上げられ、屋根には重厚な瓦が葺かれています。木造2階建ての館内に一歩足を踏み入れると、訪れた者はまず履物を脱ぎ、スリッパへと履き替えることになります。美術館で靴を脱ぐという身体的行為が、鑑賞者を「公の展示空間」から「落ち着きある民家の内部」へと心理的に引き戻す役割を果たしています。
館内を巡る際の日本民藝館の見どころとして、以下の3点は絶対に見落とせません。
- 大谷石と欅(けやき)が織りなすエントランス空間:1階中央の石畳廊下と、太い欅の大黒柱が支える吹き抜けのスケール感。自然光が障子や格子越しに柔らかく射し込み、時刻によって刻一刻と展示物の表情を変えていきます。
- 文字解説を極力排した「直観」の展示室:作品の横に長文の解説文は掲示されていません。産地と時代、品名が小さく添えられているのみです。柳が提唱した「直観(知識や先入観を捨て、自らの目で直接美を感じ取ること)」を実践させるための意図的な演出です。
- 2階大広間の天井高と木工造形:広々とした2階展示室では、朝鮮時代の白磁や沖縄の紅型(びんがた)、日本各地の古陶磁が、当時の調度品とともに調和して配されています。
また、本館の向かいに建つ日本民藝館西館の公開日には細心の注意が必要です。西館は柳宗悦が1935年に自邸として建てた旧宅で、栃木県から移築された長屋門が壮麗な佇まいを見せます。柳の書斎や居間、夫人の声楽家・柳兼子が暮らした当時の息遣いをそのまま残す貴重な建築ですが、原則として本館展覧会期間中の「第2・第3の水曜日と土曜日」など限られた指定日のみの公開となっています。訪問計画を立てる際は、必ず公式サイトの年間カレンダーを確認することが鉄則です。