中国の仏教文化において、厳しい修行の末に悟りを開き、死後も肉体が腐敗することなく現世にとどまる高僧の遺体は「肉身菩薩(にくしんぼさつ)」または「肉身仏」と呼ばれ、古くから神聖視されてきました。その起源は唐代にまで遡り、禅宗の第六祖として名高い慧能(えのう)大師の肉身像は、今なお広東省の南華寺に祀られています。
高僧が遷化(死去)した際、その徳の高さと不滅性を証明するために用いられた特殊な造像技法こそが「加漆肉身像」です。一般的な木彫や銅造の仏像とは異なり、本人の遺体そのものを芯材(原型)として用い、その上から防腐処置を施し、漆と布で外殻を構築します。
仏教の教理において、肉身菩薩は「生と死の境界を超越し、衆生を救済し続けるために現世に残された生ける仏」として捉えられました。しかし、この特異な信仰遺産は、歴史の中で幾度となく壊滅の危機に直面してきました。とりわけ1966年に始まった中国の文化大革命では、紅衛兵によって多くの寺院が破壊され、千数百年の歴史を持つ肉身像も「封建的迷信の象徴」として標的となりました。
当時の記録によると、前述の六祖慧能の肉身像も背中を割られ、内臓を引っ張り出されるなどの冒涜を受けましたが、仏源法師(佛源老和尚)ら僧侶が決死の覚悟で遺骨の破片を回収し、土中に埋めて隠し通したことで、現代にその姿を留めることができたという壮絶な証言が残されています。