「知る」という単語の敬語体系において、混乱の元凶となりやすいのが「ご存じ」と「存じ上げる」の取り違えだ。この二者の根本的な違いは、動作の主体が「相手」にあるのか「自分」にあるのかという視点の所在に尽きる。
尊敬語は、相手側の行為を高めて敬意を示す表現だ。したがって「知る」の尊敬語は「ご存じ」「お知りになる」「知っていらっしゃる」となる。「お客様はこの新機能をご存じですか?」のように、知っている主体が相手である場合にのみ成立する。
対照的に、謙譲語は自分側の行為をへりくだることで相対的に相手を立てる表現だ。「知る」の謙譲語には「存じる」「存じ上げる」「承知する」が該当する。「その件は私も存じ上げております」と使うのが正解であり、相手に向かって「○○様はその情報をご存じ上げていますか?」と尋ねるのは重大なマナー違反となる。日本マナー・プロトコール協会などの専門機関も、主語の把握を徹底することが誤用防止の最短ルートであると繰り返し提言している。