本作の核となるのは、しずかとまりなという二人の少女の間に横たわる、あまりにも複雑で痛ましい関係性です。単なる「いじめっ子と被害者」という二項対立ではなく、そこには大人たちの無責任な行動によって歪められた家庭環境の鏡合わせが存在していました。
しずかの母とまりなの父は不倫関係にありました。その結果、まりなの家庭は崩壊。まりなの母親は精神を病み、まりなに対して過干渉とヒステリックな暴力を振るうようになります。まりなにとって、しずかは「自分の幸せな家庭を壊した泥棒猫の娘」であり、激しい憎悪の対象であると同時に、自分が受けた虐待の痛みを転嫁するための唯一の逃げ場でもありました。
一方のしずかもまた、父親の蒸発と母親の無関心によって心を閉ざし、徹底して他者との対話を拒絶していました。暴力に晒されても無表情を貫き、まりなの存在そのものを無視するかのような態度は、まりなの承認欲求と怒りをさらに刺激するという最悪の相互作用を生み出していたのです。
互いが互いの地獄の原因であり、同時に互いしか自分の本当の苦境を知る者がいないという、極めて歪んだ共依存関係が二人の間に形成されていました。