御柱祭が「危険すぎる祭り」と呼ばれる背景には、扱う巨木の圧倒的な質量と、自然の地形を利用した荒々しい運行形態があります。
御柱として山から切り出されるモミの大木は、長さ約17メートル、直径1メートル超、重さは10トンにも達します。この巨大な木塊がコントロールを失った瞬間、人間にとっては凶器へと変貌します。
最も危険視される「木落し」では、下社の場合、最大傾斜約35度・距離約100メートルの急坂を一気に滑り落とします。柱の先端には「めどてこ(V字型の角のような木枠)」が取り付けられ、そこに多数の若衆(氏子)が鈴なりに乗った状態で滑降します。坂の途中で柱が横転したり、予期せぬバウンドを起こしたりすれば、乗っている人間は投げ出され、数トンの巨木の下敷きになるリスクを常に孕んでいます。
また、上社名物の「川越し」は、4月の雪解け水が流れ込む極寒の宮川を、男たちが綱を引いて渡る神事です。川の深さは胸近くに達することもあり、水圧と極度の冷水によって体力を奪われ、足を取られて巨木と川底の間に挟まれる水難事故のリスクが存在します。
さらに、境内へ無事に運び込んだ後に行われる「建御柱」も極めて危険です。垂直に立ち上がる柱の頂部や側面に乗ったまま、木遣り(きやり)を歌い御幣を掲げるため、万が一ワイヤーの切断やバランスの崩壊が起これば、高所からの落下を防ぐ手立てがありませんでした。