ネット上の掲示板やSNSでは、「境界性パーソナリティ障害の女性は顔つきで分かる」「目が笑っていない」「独特の魔性のオーラがある」といった視覚的ステレオタイプがしばしば語られます。しかし、精神科の臨床現場において特定の身体的特徴が診断根拠になることはありません。
いわゆる境界性人格障害の顔つきの印象と雰囲気として巷で語られるものの正体は、感情の過酷な乱高下に伴う過覚醒状態や解離症状の表出です。交感神経が極度に緊張した際の瞳孔散大や凝視、強い自己無価値感に苛まれている時の生気を失ったうつろな視線、あるいは激しい愛着飢餓感からくる子どものような甘えた表情の切り替わりが、観察者に「引き込まれそう」「底知れない」という特異な印象を与えているに過ぎません。
米国精神医学会(APA)が定める『DSM-5-TR』の診断基準に基づき、客観的な臨床データと社会的通念のギャップを整理したのが下表です。
臨床的な境界性パーソナリティ障害 診断チェックリストとして医師が確認する9つの兆候には、「狂乱じみた見捨てられ回避の努力」「両極端を揺れ動く不安定な人間関係」「同一性の障害(自己像の定まらなさ)」「浪費・性行動などの衝動性」「反復する自殺行動や自傷」「感情の著しい反応性(強い不快気分や不安)」「慢性的な空虚感」「不適切で激しい怒り」「一過性の妄想様観念や解離症状」が含まれます。単に「感情の起伏が激しい性格」という範疇をはるかに超え、生活機能そのものが深刻に障害されているかどうかが境界線となります。