愛犬が突然豹変して凶暴化するのは一体なぜなのか。多くの飼い主が抱くこの根源的な問いに対し、動物行動学と神経病学の専門医は「攻撃行動の動機が存在しない点」を指摘します。通常の犬の噛みつき事故であれば、食事や玩具を守ろうとする「所有性攻撃」、触られた箇所に痛みがある「疼痛性攻撃」、あるいは恐怖から逃れようとする「自己防衛」など、何らかの理由が存在します。
一方、正式名称を「突発性激怒症候群(Sudden Onset Aggression)」や「レイジシンドローム」と呼ぶこの疾患では、ソファで心地よさそうに寛いで撫でられていた最中や、ただ部屋を横切っただけの瞬間に、突如としてスイッチが入ります。犬が突然噛みつく理由を探そうとしても、外的な誘因が見当たらないのが最大の特徴です。
発症メカニズムとしては、脳内の神経伝達物質であるセロトニン代謝の機能不全、あるいは大脳辺縁系や側頭葉に生じるコッカースパニエル特有のてんかん発作(部分発作・精神運動発作)が強く関与していると有力視されています。すなわち、自らの意思で怒っているのではなく、脳内の電気的ショートによって凶暴な行動プログラムが強制的に起動してしまっている状態に他なりません。発作が収まると、当の犬は何事もなかったかのように尻尾を振り、飼い主の手を舐めることすらあります。この前後の落差こそが、本疾患が単なる気性の荒さではない決定的な証拠です。