アニメファンやサブカルチャー研究者の間で頻繁に語り草となるのが、『風の谷のナウシカ』のクシャナと、『機動戦士Ζガンダム』『機動戦士ガンダムΖΖ』に登場するネオ・ジオンの指導者ハマーン・カーンとの共通点です。いずれも榊原良子が息を吹き込んだ、日本アニメ界を代表する女性統率者です。
両者には驚くほどの構造的相似が見られます。第一に「家督争いや政治的陰謀に囲まれながら、若くして軍の全権を掌握したこと」、第二に「並み居る男性武将たちを圧倒的な知略とカリスマで統率していること」、そして第三に「内面に誰にも明かせない深い傷と孤独を抱えている点」です。ハマーンの「俗物が!」「恥を知れ、俗物!」という峻烈な叱責と、クシャナの冷徹ながらも部下を鼓舞する指揮棒のような言葉には、榊原良子というフィルターを通した共通の美学が流れています。
1980年代前半の日本アニメにおいて、女性キャラクターの多くは「庇護されるヒロイン」か「ステレオタイプな魔性の悪女」に二分されていました。その潮流に風穴を開け、自らの足で大地に立ち、組織の頂点で孤高の決断を下す「闘う女性の尊厳」を提示したのが、榊原良子の声でした。この系譜は、後の『機動警察パトレイバー』の南雲しのぶ隊長や、『攻殻機動隊 S.A.C.』の茅葺薫首相へと真っ直ぐに受け継がれています。