上弦の鬼たちの強さの根底には、人間時代に抱えた凄まじい執念や悲劇的な生い立ちが存在します。単なる悪役として片付けられない人間ドラマこそが、読者の心を強く揺さぶり続けています。
上弦の壱・黒死牟は、戦国時代に「継国巌勝(つぎくにみちかつ)」という武士として生まれました。彼を鬼へと突き動かしたのは、実の双子の弟であり、呼吸の創始者である天才・継国縁壱(つぎくによりいち)への激しい嫉妬と劣等感です。アザを発現させた剣士が25歳までに死ぬ運命を前に、己の武芸を永遠に残すため、無惨の誘いに乗って人間を捨てました。
上弦の参・猗窩座(人間名:狛治)の過去は、作中屈指の悲劇として知られます。病弱な父のために盗みを重ねていた狛治は、道場主の慶蔵とその娘・恋雪(こゆき)と出会い、更生して愛する人を守る誓いを立てました。しかし、隣接する剣術道場の卑劣な毒殺によって愛する二人を一度に奪われ、絶望の中で隣の門弟67人を素手で惨殺。心を失い血の海を彷徨っていたところを無惨と遭遇し、記憶を奪われたまま戦闘狂の鬼へと変貌した経緯を持ちます。
上弦の陸の妓夫太郎と堕姫(梅)もまた、吉原の最下層「羅生門河岸」に生まれ、貧困と差別の底辺で育ちました。生きたまま焼き殺された妹を抱きしめ、雪の中で絶望していた妓夫太郎の前に当時の上弦の弐(後の童磨)が現れたことで、兄妹揃って鬼としての道を歩むことになりました。