これまで人間ドラマの機微を緻密に描き出してきた是枝裕和監督。今回、彼が本格的なミステリー要素を含むコメディに挑む背景には、並々ならぬ執念がある。撮影現場の裏側では、劇中に登場する料理の再現性やタイミングについて、監督自身が料理監修者と何時間も議論を重ねる姿が目撃されている。
役所広司もまた、調理の所作を完璧に叩き込むため、クランクインの数ヶ月前から老舗料亭に通い詰めたという。当初のシナリオにはなかった未公開エピソードとして、店を訪れる謎の客との即興演劇のような掛け合いが急遽本編に採用されたという逸話も伝わってきた。一切の妥協を許さないプロフェッショナリズムが、作品に底知れぬ深みを与えている。