第199話で多くの読者を驚愕させたのが、日光に焼かれ始めた無惨が見せた「巨大な赤ん坊の姿(赤ちゃん形態)」です。スタイリッシュな成人男性や妖艶な女性の姿を好んで擬態していた無惨が、最期になぜこれほど異形かつ無様な姿へと膨張したのかには、明確な身体的理由と深層心理の双方が存在します。
第一の物理的理由は、「日光から本体の核を守るための肉の盾」です。分裂能力を奪われ、逃げ場を失った無惨は、全身の細胞を急速に増殖・肥大化させて分厚い肉の壁を構築しました。外側の肉体が日光で焼かれて炭化している間に、内部に潜む本体の生命維持を図り、土中へ潜り込んで難を逃れようとした生体防御反応です。
第二の心理学的理由は、無惨の原風景である「死に瀕した未熟児時代への退行」です。平安時代、無惨は母親の胎内にいた頃から心臓が何度も止まり、死産として焼かれる直前に産声を上げました。絶対者として振る舞いながらも、根底にあったのは「死に対する原初の恐怖」であり、極限状態において精神がその未熟な赤子の原点へと退行した描写であると臨床心理学的にも読み解くことができます。