海外の外来語に頼らずとも、日本国内の言語体系の中にんから始まる沖縄方言が脈々と受け継がれています。琉球諸語(沖縄方言)は、本土の日本語と同系統でありながら、独自の音韻変化と保存形態を持っています。
んから始まる食べ物の代表格として親しまれているのが、島野菜の「ンジャナ(別名:ンダナ=苦菜)」や、豆腐や野菜を味噌で蒸し煮にする調理法「ンブシー」です。また、主食として歴史を支えたサツマイモを指す「ンニャ」(宮古方言など)という言葉も記録されています。
さらにんから始まる動物や身近な事物を探ると、宮古方言でセミを指す「ンブラ」、フクロウを指す「ンブフル」、さらには「味噌」そのものを意味する「ンス」や「油」を意味する「ンダ」など、生活に密着した基礎語彙の中に無数の「ん」が存在します。
なぜ本土の日本語で消滅した語頭の「ん」が沖縄に残ったのか――。んから始まる日本語の理由を言語史的に辿ると、古語における「む」や「う」の音が、南西諸島の音韻推移の中で子音化・鼻音化し、語頭に定着したことが判明しています。日本語の歴史の深層において、「ん」から始まる言葉は決して異分子ではなく、正統な語彙の系譜に位置づけられます。