池波正太郎が1972年から1974年にかけて発表した『雲霧仁左衛門』は、大名屋敷や豪商の厳重な金蔵を煙のように破り、大金を鮮やかに奪い去る盗賊集団を描いた痛快劇です。その首領である雲霧仁左衛門が率いる一党は、決して無駄な血を流さず、貧民を苦しめる悪徳商人や強欲な権力者のみを標的に定めます。
対する治安維持の最高責任者、火付盗賊改方の頭・安部式部は、卓越した洞察力と冷徹な判断力で雲霧の足取りを追い詰めます。単なる善悪の二元論に収まらない「法を守る男」と「掟に生きる男」のプライドがぶつかり合う心理戦こそが、本作最大の醍醐味です。
周到な下調べを行う「引き込み」、一瞬の隙を突いて侵入する「手配師」、そして神出鬼没の陽動作戦。まるで現代のケイパームービー(犯罪計画劇)を彷彿とさせる緻密なプロット構成が、時代劇という枠組みを超えて読者を引き込みます。