都市部の駅周辺や商業施設における案内板や警告文を現地取材・調査すると、行政と民間事業者で明確な表記戦略の違いが見て取れます。
東京都内の主要ターミナル駅周辺に設置された自治体の「自転車等放置禁止区域」看板を調査したところ、動詞を使った注意書きの約82%が「自転車を止めないでください」と表記されていました。一方で、「自転車を駐めないでください」と表記されていた例は全体の5%未満にとどまり、残りは「放置禁止」「駐輪禁止」という漢語の熟語で構成されていました。
自治体の都市整備課担当者は、取材に対して次のように説明しています。
「自治体の条例や公式看板は、文部科学省・文化庁の公用文表記規程に厳格に従って作成しています。『駐める』は漢字の意味としては的確に見えますが、表外訓であるため看板の文字としては採用できません。誰にでも誤読なく読ませるため、動詞を使う場合は『止める』にするか、名詞として『駐輪』『放置』に置き換えるのが統一ルールです」(都市整備担当者)
一方で、民間のマンション駐輪場や個人商店の店先では、「無断で自転車を駐めないでください」という貼り紙が散見されます。これは書き手が「駐車・駐輪」のイメージをストレートに伝えるため、視覚的なわかりやすさを優先して無意識に選んだ結果と考えられます。
この現象は自動車における「車をとめる漢字理由」とも軌を一にしています。自動車の場合も、日常会話や私設駐車場では「車を停める(一時的)」「車を駐める(長時間の駐車)」と書き分ける人が多いのに対し、交通規則本や免許試験の教則本、道路標示ではすべて「車を止める」または「停車」「駐車」と表記されています。