窯垣の小径資料館は、江戸時代後期から続く名門窯元であった寺井家(屋号:東光園)の旧邸宅を瀬戸市が整備・保存公開している文化施設です。主屋や離れ、庭園に至るまで、建物全体が「陶磁器による装飾の実験場」であったかのような重厚な趣を漂わせています。
館内へ一歩足を踏み入れると、まず視線を奪われるのが床面に敷き詰められた「本業敷瓦(ほんぎょうしきがわら)」です。本業焼とは、磁器(新業)が台頭する以前から瀬戸で受け継がれてきた伝統的な陶器を指します。幾何学模様や草花文様が呉須(藍色の顔料)や鉄絵で丁寧に描かれた敷瓦は、人の往来によって角が取れ、時代を経た陶土ならではの深みある艶を放っています。
そして資料館最大のハイライトが、かつて家族や来客を迎えていた「総タイル張りの浴室」です。壁面から浴槽の縁、床に至るまで、一枚一枚職人の手仕事によって絵付けされたマジョリカ風タイルや染付タイルで埋め尽くされています。青と白を基調とした爽やかなコントラストの中に、波千鳥や花鳥風月をモチーフにした絵柄が繊細に描き込まれており、近代瀬戸の美意識の高さを物語る圧巻の空間といえます。
庭園に目を向ければ、登窯で製品を焼く際に敷いた「タナ板」や器を支えた「ツク」を巧みに組み合わせて作られた土留めや垣根が広がり、館全体が瀬戸焼の歴史を雄弁に物語る生きたミュージアムとなっています。