比較民俗学の研究において、『三枚のお札』は国際的な説話分類(ATUインデックス)で「ATU 313:魔法の脱出(呪宝脱出譚)」に位置づけられる極めて普遍的な物語類型です。小道具を投げて障害物を出現させ追っ手から逃れるモチーフは、日本神話におけるイザナギノミコトが黄泉の国から逃げ帰る「黄泉比良坂(よもつひらさか)の神話」や、ギリシャ神話、ロシア民話など世界各地に類例が見られます。
では、なぜ日本においてこの物語が「山姥・小僧・和尚」というトリオの形式で定着したのでしょうか。民俗学者・柳田國男らの指摘によると、山姥とは「山の異界性」そのものの象徴です。山はかつて里の住人にとって恵みをもたらす場であると同時に、一歩足を踏み外せば命を落とす魔境でした。栗拾いという現世の欲望に釣られて境界線を越えてしまった小僧は、共同体のルールを逸脱した存在として、山の脅威に飲み込まれそうになります。
深層心理学(ユング派心理学)の観点から分析すると、山姥は子どもを束縛し呑み込もうとする「太母(グレートマザー)の破壊的側面」を体現しています。過保護や過干渉によって自立を阻む母性の影から抜け出し、一人前の自己を確立するための試練として、この脱出劇が機能しているのです。そして、暴力に対して暴力で対抗するのではなく、「お札(知恵の象徴)」と「和尚(精神的指導者・父性原理)」の力を借りて機転で乗り越えるプロセスは、人間が野生の脅威を克服して文化的生活を営むための成熟プロセスを鮮やかに描いています。