本作において最大のサプライズと称されたのが、北川景子さんによる「お市」と「茶々(淀殿)」の二役出演です。通常の大河ドラマでは、母娘であっても成長後の娘役には別の俳優が起用されるケースが大半を占めますが、制作統括および演出陣はあえて同一キャストの起用に踏み切りました。
この二役キャスティングには、明確なドラマ的狙いがありました。家康にとって「憧れの君であり、救えなかった後悔の象徴」であるお市の方。その瓜二つの容貌を持つ娘・茶々が、やがて家康の前に立ちはだかる最大の敵として成長するという構図は、宿命の連鎖を視覚的にも心理的にも強調する絶大な効果を生み出しました。
制作発表段階では茶々役のキャストは伏せられており、物語が後半へ突入したタイミングの追加キャスト発表で北川さんの再登場が明かされると、ソーシャルメディアを中心に大きな衝撃が走りました。北川さんは、誇り高く凛としたお市と、妖艶で魔性的な威圧感を放つ茶々を声のトーンや視線の配り方一つで完全に演じ分け、視聴者の絶賛を浴びました。
なお、ネット上で一部囁かれた「キャスト交代に伴う代役ではないか」という噂について、制作サイドのインタビュー資料等を検証すると、当初のプロット段階からお市と茶々の二役構想は計算された演出プランであったことが判明しています。作品のテーマである「託された想いと因果」を具現化するための、極めて計算された布陣だったといえます。