豚をまるごと焼く文化は、世界各地の気候風土と結びつき、独自の進化を遂げてきた。その代表格がフィリピンの誇る伝統料理「レチョン」だ。腹の中にレモングラス、ニンニク、タマリンドの葉をこれでもかと詰め込み、数時間にわたって均一に火を通す。仕上がりは驚くほど軽やかで、柑橘系の爽快な香りが肉の旨味を引き立てる。
一方、インドネシア・バリ島の「バビグリン」はスパイスの小宇宙だ。ターメリック、ガランガル、エシャロット、唐辛子などをすり潰した特製ペースト「バサ・グデ」を擦り込み、ココナッツの殻を燃料にして炙り上げる。スパイシーな刺激と濃厚なハーブの香気が一体となり、一口ごとに鮮烈な快感を運ぶ。これら熱帯の知恵は、日本のシェフたちにとっても無尽蔵のインスピレーション源となっている。