湖の表面に走る白い巨大な亀裂は、偶然の産物ではない。厳密な物理現象の積み重ねが生み出す氷の工芸品だ。まず、水深の浅い諏訪湖全体が一枚のぶ厚い氷板で覆われる全面結氷が前提となる。気温がマイナス10度以下まで急降下する深夜、氷は熱収縮を起こして無数の微細な裂け目を作り、その隙間に湖水が入り込んで瞬時に凍結する。
夜が明けて日差しが差し込むと、今度は一転して氷板が膨張を始める。隙間が新しい氷で埋まっているため、膨張した氷の行き場が失われ、互いに猛烈な力で押し合わざるを得ない。限界に達した瞬間、「ズズーン」「バリバリ」という腹に響く地鳴りのような音とともに、氷板がV字状に持ち上がり、高さ数十センチから1メートルを超える氷の山脈が湖上を走る。大自然が奏でるこの氷響(ひょうきょう)こそ、湖が生きている証拠そのものだ。