木を削る行為は、削ぎ落とす作業であると同時に、内側に眠る形を解き放つ作業でもある。クロ ヌマ タカトシの制作プロセスには、素材に対する深い敬意が満ちている。
ノミ跡が語る時間の痕跡
表面を完全な平滑に仕上げるのではなく、あえて刃物の彫り跡を残す。この「ノミ跡(削り痕)」こそが、彼の作品における重要な言語となっている。光が当たると、規則的でありながら不規則なノミの刻み目が微小な影を生み出す。この影の集合体こそが、作品全体に命のような温もりを与えるのだ。
削り出された面の一つひとつが、作家が刃を振るった瞬間の呼吸を記憶している。 mechanical な機械加工では絶対に再現できない、人間の手が介在したからこその生々しさがそこにはある。
質感を生み出す塗膜と彩色の妙
木彫でありながら、どこか古代の石膏像や古代フレスコ画のような風合いを感じさせるのも、クロ ヌマ タカトシ作品の大きな特徴だ。彼は削り出した木地に、下地塗料や薄い胡粉、顔料を幾重にも塗り重ね、それを部分的に研ぎ落とす技法を用いる。
木目の肌合いと、塗膜の白や淡い色彩が複雑に交錯する。結果として生まれるのは、何十年、何百年という歳月を経たかのような風化の美だ。新しく作られたはずの彫刻が、最初からそこに何世紀も存在していたかのような錯覚を起こさせる。