作中において妲己の恐ろしさを際立たせていたのが、紂王に対する徹底的な精神的調教と、主人公・太公望との知略戦です。当初の名君ぶりから一転、妲己の言いなりとなって国を滅亡の淵へと追いやった紂王。その裏には、妲己が所持するスーパー宝貝(パオペエ)「傾世元禳(けいせいげんじょう)」の圧倒的な存在がありました。
傾世元禳は、纏うだけであらゆる攻撃を無力化する絶対防御の衣であると同時に、周囲の者の心を狂わせ、精神を完全に屈服させる精神支配の力を秘めています。しかし、妲己の真の手腕は宝貝の能力だけに依存したものではありませんでした。彼女は紂王の深層心理にある「名君としての重圧」や「満たされない孤独」を巧妙に突き、アメとムチを絶妙に使い分けることで、紂王を完全に心理的依存状態へと追い込んだのです。
一方で、敵対関係にあった太公望との間には、奇妙な「共犯関係」とも呼べる知的高揚感が漂っていました。太公望は妲己の悪辣さを誰よりも憎みながらも、彼女がただの妖魔ではなく、仙界の構造的な歪みを突き崩そうとしている気配を察知していました。妲己もまた、策謀を巡らせる太公望の才覚を認め、自らの壮大な舞台を完成させるための「最高の道化役にして共演者」として利用し続けたのです。