日本の鉄道史において、安全思想の根本的な再構築を迫られた最大の契機が、2005年に発生したJR福知山線脱線事故です。過密ダイヤと遅延回復への強い心理的プレッシャーが重なり、カーブ手前での過度な速度超過によって列車が脱線・大破、乗客と運転士合わせて107名が命を落とす大惨事となりました。
この事故を機に、国土交通省の鉄道事故調査委員会(現在の運輸安全委員会)による徹底した原因究明が行われ、日本の鉄道保安基準は劇的に改定されました。速度照査機能を持たない旧型ATSから、制限速度を超えた瞬間に自動減速・非常停止をかける新型ATS(ATS-PやATS-Dxなど)の配備が全国の主要路線で義務付けられたのはその代表例です。
過去の事例から学ぶべき最大の教訓は、「人間の注意深さだけに頼る安全管理には限界がある」という冷徹な事実です。人的エラー(ヒューマンエラー)が発生することを前提とし、二重三重の自動制御バックアップを物理的に構築することこそが、その後の重大脱線事故を防ぐ決定打となりました。