根谷美智子のキャリアを語る上で、ファンの間で長年語り継がれているトピックが『鋼の錬金術師』におけるリザ・ホークアイ役のキャスト変更です。2003年版テレビアニメおよび劇場版『シャンバラを征く者』でリザ役を演じた根谷ですが、2009年に放送された完全新作『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』(FA)では、折笠富美子へとバトンタッチされました。
当時、ネット上では「根谷美智子と制作陣の間に何らかのトラブルがあったのではないか」「体調不良による降板か」といった不穏な憶測が一部で囁かれました。しかし、アニメーション制作関係者の証言や当時の制作発表資料を検証すると、そうした噂は完全に的外れであることが分かります。
2009年版『FA』は、原作コミックのストーリーを最初から最後まで忠実に映像化することを命題とした完全リブート作品でした。制作委員会および音響監督は、主人公のエドワード・エルリック(朴璐美)とアルフォンス・エルリック(釘宮理恵)の兄弟役を除き、ロイ・マスタング役(大川透から三木眞一郎へ)をはじめとする主要キャラクターの大半を大幅に刷新する方針を策定しました。
つまり、リザ役の交代は根谷個人の問題ではなく、作品全体を新世代向けにリビルドするための構造的キャスティング戦略によるものです。2003年版の根谷リザが見せた哀愁と重厚感、2009年版の折笠リザが見せた鋭さと透明感の双方が、それぞれの作品世界の魅力を極限まで高めた好例と言えます。