血圧管理の指針は、過去数十年にわたり厳格化と個別化の間で議論が繰り返されてきました。かつて医療現場では「加齢とともに血管が硬くなるため、高齢者はある程度血圧が高くても自然」と考えられていた時代がありました。しかし、大規模臨床試験(SPRINT試験やSTEP試験など)の知見が蓄積されるにつれ、高齢者であっても適切に血圧をコントロールすることで、脳心血管病の発症リスクや死亡率を有意に抑制できる事実が明確になりました。
日本高血圧学会のガイドラインにおいて、75歳以上の後期高齢者に対する標準的な目標値は診察室血圧で140/90mmHg未満(家庭血圧で135/85mmHg未満)、忍容性(副作用なく薬に耐えられる状態)があれば130/80mmHg未満を目指す方針が示されています。ただし、80代の実臨床においては「画一的に数値を下げること」への反省も生まれています。
過度な降圧によって血圧が80mmHg台まで低下すると、脳や腎臓への血流が不足し、ふらつきによる転倒・大腿骨骨折や急性腎障害を引き起こすリスクが急増します。現在の医療現場では、単に数値を追うのではなく、患者の活動度や認知機能、併存疾患を総合的に評価する「テーラーメイド型管理」へとシフトしています。