本来であれば忌避されるべき「殺し屋」という存在が、なぜ読者にとってこれほど愛おしく、感情移入できる対象になるのか。その秘密は、伊坂幸太郎がキャラクターたちに注ぐ独特の視線にある。
彼らは決して冷酷無比な記号ではない。スーパーの特売チラシを気にし、きかんしゃトーマスの哲学を熱弁し、自身の不運を嘆き、家族への罪悪感に苛まれている。日常の些細な悩みを抱えたまま非日常の暴力世界に身を置く彼らの姿は、どこか滑稽で、どこまでも人間臭い。
暴力や死が日常茶飯事のダークな題材を扱いながらも、読後に漂うのは後味の悪さではなく、奇妙な爽快感と人間への優しい眼差しだ。この絶妙なトーンコントロールこそが、出版業界において著者が長年にわたりトップランナーであり続ける最大の理由だろう。