香川の麺文化が全国的な脚光を浴びた背景には、確固たるカルチャーの潮流がある。かつてタウン誌の編集長としてゲリラ的な名店発掘を仕掛けた田尾和俊氏のムーブメント、そしてそれを題材に本広克行監督が手掛けた映画『UDON』の公開から長い年月が流れた。一過性のブームに終わるどころか、香川県観光協会が展開した「うどん県プロジェクト」の快進撃を経て、讃岐うどんは日本を代表する食文化へと成熟を遂げた。
現在の讃岐うどんは、懐古主義に留まらない。伝統的な足踏み製法や手切りの技法を守り抜く老舗がある一方で、若手職人によるハイブリッドな小麦ブレンドや、出汁の抽出温度を科学的に追求する新世代の店舗が台頭している。地域固有の食文化を体感するフードツーリズムの世界的広がりも後押しし、今やこの地を訪れる旅人たちの眼差しは、単なる「安くて旨いB級グルメ」ではなく、職人技と風土が織りなすアートピースへと向けられている。