作家の北原みのりによる『毒婦 木嶋佳苗の100日裁判』は、この事件の本質を抉り出した名著として今も読み継がれている。法廷に現れた木嶋は、決して世間一般が定義する「絶世の美女」ではなかった。にもかかわらず、手料理の腕前、徹底して男を立てる古風な振る舞い、そして水色のリボンやフリルをあしらった衣服で自己演出を施し、男たちから巨額の資金を引き出していた。
北原が鋭く指摘したのは、木嶋が体現していた「日本の男たちが求める都合の良い女」という幻想と、それを冷徹に利用して嘲笑するような女の狂気だ。法廷での堂々とした立ち振る舞いは、裁判員や傍聴人に強烈な違和感と不快感、そして奇妙な魅力を植え付けた。事件から年月が経過した今読み返しても、人間心理の暗部を覗き込むような生々しさが立ち上がってくる。