三代目坂東八十助としての瑞々しい若手時代から、襲名を経て名実ともに大看板となった十代目坂東三津五郎。その生涯は、古典の継承と革新の連続であった。大和屋の至宝である坂東流家元としての重責を果たしながら、役の根底にある感情を論理的かつ情熱的に解釈する独自の演技論を確立。決して型を崩さず、それでいて現代の観客の胸を突くリアリティを宿らせる手腕は、同業者からも畏敬の念を集めた。
舞台上での彼は、小気味よい江戸の粋を体現する一方で、陰影に富んだ人間の弱さや哀哀をにじませる深みを持っていた。観る者を一瞬で劇世界へ引きずり込む引力。それは、妥協を一切許さない稽古と、歴史や民俗学に対する並外れた探求心から紡ぎ出されたものに他ならない。