多くの男性がオーダー時に抱く最大のハードルが、「ポンパドールにすると昔のツッパリのようなリーゼントになってしまうのではないか」という懸念です。しかし、毛髪意匠学および服飾史の観点から両者を精査すると、根本的な構造と起源が全く異なることが分かります。
ポンパドールの名称は、18世紀のフランス国王ルイ15世の愛妾であったポンパドゥール夫人(Madame de Pompadour)が好んだ、前髪を高く盛り上げて額を見せるヘアスタイルに由来します。これが20世紀中盤にエルヴィス・プレスリーらロカビリーミュージシャンによって男性のヘアスタイルへと再解釈され、世界的なマスキュリン・アイコンへと発展しました。つまり、「前頭部から頭頂部にかけてボリュームを持たせてバックへ流す膨らみそのもの」をポンパドールと呼びます。
一方の「リーゼント(Regent)」は、実はサイドの髪の毛を後頭部に向けて流し、中央で合わせるバックサイドの毛流れ(ダックテール)を指す言葉としてイギリス・ロンドンのリージェント・ストリートに由来する日本特有の呼称です。昭和の日本で両者が同時に流行した結果、サイドをなでつけてフロントを突き出したスタイル全体を「リーゼント」と総称する誤認が定着してしまいました。
取材に応じた都内老舗バーバーのマスター理髪師は、自著や業界誌のインタビューで次のように指摘しています。
「フロントの立ち上がりがポンパドールであり、サイドの撫で付けがリーゼントの要素。サイドをタイトに刈り上げ、トップの立体感を際立たせる現代のポンパドールは、威圧的な不良文化のそれとは一線を画す、極めてノーブル(高貴)なクラシックスタイルなのです」