ネット上で無数のパロディを生み出している「安物のキャンディだ」というセリフは、板垣恵介氏が『週刊少年チャンピオン』で連載した格闘漫画『刃牙道』第78話(単行本第9巻収録、サブタイトル「安物のキャンディ」)が元ネタである。口にしたキャラクターは、言わずと知れた「地上最強の生物」こと範馬勇次郎(はんま ゆうじろう)だ。
歴代のアニメシリーズでは屋良有作氏や大塚明夫氏といった重鎮声優が勇次郎の圧倒的な威圧感を演じ分けてきたが、アニメ版『刃牙道』の該当シーンにおいても、重厚な低音ボイスがこの台詞に底知れぬ凄みを与えている。では、具体的にどのような場面でこの言葉が紡ぎ出されたのか。前後の緊迫したやり取りを振り返る。
舞台は、柔術の達人・本部以蔵の道場。静まり返った室内で、勇次郎は無骨なガラス瓶から赤みがかった大粒の飴を取り出し、口へと放り込む。飴が歯に触れる乾いた音――「カロッ」という擬音とともに、傍らに置かれたグラスから芳醇なコニャックを煽る勇次郎。その異様な姿を前に、本部は驚きを隠せずこう問いかける。
「貴堂(あなた)が甘党とはな…」
その問いに対し、勇次郎が静かに、しかし有無を言わせぬ絶対的なリアリズムを伴って返した言葉こそが、次のセリフである。
「安物のキャンディだ……コニャックによく合う」
世界中の贅を尽くした美食を味わい尽くし、国家首脳すら顎で使う男が、高級ショコラでもドライフルーツでもなく、あえて選んだ「安物のキャンディ」。この瞬間のギャップと、直後に本部以蔵が放つ衝撃的な発言「俺が貴堂を守護(まも)らねばならぬ」への雪崩れ込むような展開が、読者に強烈なインパクトを焼き付けた。