SNSや動画サイトで拡散されている「裏ワザ」には、繊維科学の観点から見ると重大な落とし穴が潜んでいます。取材班がクリーニング現場を取材した際、熟練の職人たちが口を揃えて指摘したのが「熱湯信仰の危険性」でした。
「熱いお湯のほうが油が溶ける」と考え、沸騰したての100℃近い熱湯を衣類にかける人が後を絶ちません。しかし、熱湯とぬるま湯の温度別効果を正しく把握していなければ、取り返しのつかない事態を招きます。綿やポリエステルであっても熱湯を浴びせると繊維自体が熱収縮を起こして型崩れするほか、ラーメンのスープや肉汁に含まれる「動物性タンパク質」が約60℃を超えると熱凝固を起こし、繊維に半永久的に焼き付いて落ちなくなってしまいます。油染み抜きにおける至高の安全域は、「40℃以上50℃未満のぬるま湯」なのです。
また、食事中のアクシデントに対する外出先での油染み応急処置にも致命的な誤解が蔓延しています。店舗で配られる「除菌おしぼり」や濡れナプキンで患部をゴシゴシと擦る行為は絶対に避けてください。おしぼりに含まれるアルコールや防腐剤が染料を溶かして色落ちを引き起こしたり、油汚れを繊維の網目深くに押し込んでしまうためです。
外出先での正しい初期行動は、以下の3ステップに尽きます。
1. 乾いたティッシュペーパーや紙ナプキンを染みの上下に挟み、上からギュッと指で挟んで表面の油分を吸着させる。
2. お手洗いのハンドソープを指先にほんの少しつけ、染み部分に軽く馴染ませる。
3. 水を含ませたハンカチやペーパーで、擦らずにポンポンと叩きながら汚れを移動させる。
この「広げない・擦らない」応急処置をしておくだけで、帰宅後の本洗いでシミが残る確率は劇的に下がります。