SNSや動画サイトでは「ボートに近づいてきて顔を見せてくれた」「水族館で手を振ると寄ってくる」といった投稿が拡散され、スナメリに対して「人懐っこい犬のような性格」というイメージを抱く人が少なくありません。しかし、現場のフィールド調査員や現役漁師の証言を突き合わせると、ネット上の評判と野生のリアルとの間には大きな隔たりが存在します。
長年、伊勢湾や有明海で生態調査に携わる海洋調査研究員の記録によると、野生のスナメリは極めて警戒心が強く、臆病な気質を持っています。船のスクリュー音やエンジンの振動を察知すると、数百メートル離れた地点で即座に潜水し、航跡波を避けて逃走するのが本来の行動です。イルカのように船首の波に乗って楽しそうにジャンプする「バウライディング」を見せることは自然界ではまずありません。
では、なぜ「人懐っこい」という評判が定着したのでしょうか。その背景には、人工的な飼育環境下で形成されるスナメリ特有の認知行動があります。水族館で暮らすスナメリは、外敵の脅威から完全に解放された空間で育つため、持ち前の高い知性と首を動かせる柔軟な骨格を存分に発揮します。来館者の身振りや衣服の色をガラス越しに凝視し、口から小さな泡(バブルリング)を吹き出して見せたり、ダイバーの足元に体をすり寄せたりする行動が日常的に観察されます。つまり、「野生は徹底した慎重派」「飼育下では極めて好奇心旺盛で友好的」という、環境に応じた極端な二面性こそがスナメリの真のパーソナリティです。