音楽ファンの間で長年議論されてきた最大の謎が、「なぜ助詞の『を』でタイトルが途切れているのか」という点です。通常であれば、『僕の名前を呼んで』や『僕の名前を忘れないで』といった動詞を伴う文章題になるはずですが、清水依与吏はあえて「僕の名前を」という目的格の状態でタイトルを結んでいます。
この命名に隠された決定的な理由は、文脈によって補完される動詞が変化する「多面的な感情構造」を意図したためと考えられます。
曲の前半からサビにかけては、「僕の名前を(呼んでくれた)」「僕の名前を(知ってくれた)」という、相手に対する純粋な感謝と受容の余白です。他方で、楽曲がクライマックスへと進むにつれて、主人公の感情は「僕の名前を(呼ぶ君の声を、一生守り抜く)」「僕の名前を(呼んでくれた君の未来を、僕が照らす)」という強い意志へと昇華していきます。
あえて後続の動詞を切り落とすことで、リスナー自身が自らの人生経験や恋愛観に応じて、「呼んでくれた奇跡」にも「呼び続けてほしい願い」にも、あるいは「愛し抜く決意」にも結びつけることができるオープンエンドな余白が設計されているのです。この緻密な言語表現の引き算こそ、作詞家・清水依与吏の真骨頂と言えます。